笙とスパゲッティ

雅楽の稽古では唱歌(しょうが)と言って、先ず先生の手本を聴き、譜を見て歌いながら、曲を覚えなければなりません。それから初めて楽器に触らせて貰えます。これはなかなか骨が折れますが、譜を見ながら吹くなんて私にはできません。そもそも私は洋楽の演奏(バイオリン、ハープ等)でも、暗譜してしまわないうちは音楽ができないような気がします。自身の初見能力がめちゃめちゃ低い、ということも関係するのでしょうか...

 

壱越調(いちこつちょう:雅楽の六調子のトップ。洋楽のニ長調に相当)の曲から私の稽古は始まりました。「曲を覚えるには写譜をするとよい」と師匠には言われたものの、なかなかどうして、いつまでたっても覚えられません。思い余って、写した譜を台所のコンロの前に貼り、スパゲッティを茹でる間、箸でかき回しながら覚えることにしました。湯を沸かしアルデンテまで10分くらい、1曲唱えるのにちょうど良い時間です。そのうち料理する鍋から飛び散る油が譜に染み込んで、引火しそうになってきました。これはいかん、火事になる前に覚えなければ、と発奮です。「春鶯囀颯踏(しゅんのうでんさっとう)」はそのようにして覚えました。

 

後に聞いたら、先輩の旋盤工は仕事場の旋盤の作業台に譜を貼って覚えたそうです。旋盤作業の安全性からは首を傾げざるを得ない行為ですが、音楽をやる心構えは見上げたものです。みんな苦労し工夫して覚えるんだなあ、と思いました。 10年前の話です。 NN10 ■

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